クジ運のない私は、福引でもまず当った試しがありません。
冷え込みが厳しい中で並び、長時間待った末の福引。
しかも、途中でおばさんに割り込みをされる始末。
幼い私に神が情けをかけてくれるかといえば、
そんなに甘いものじゃありません。
見事に全部ハズレ。ハズレ賞はポケットティッシュ。
福引係りのバイトのお兄さんは寒い中待ち、
割り込みまでされた私を気遣ってか何個か余計にくれました。
ポケットティッシュを差し出すお兄さんからは、
「割り込みを注意できなくてごめん」という心の声も聞こえてような気がしました。
私はありがとうと受け取りました。
まだ小学生だった私。
正直ってちょっと多くポケットティッシュをもらっても、
得をしたとはあまり感じません。
嬉しかったのはポケットティッシュよりも、お兄さんの気持ち。
お礼はポケットティッシュではなく、お兄さんの優しさに向けたものでした。
頬はすっかり凍るように冷たくなっていたけれど、
手袋の下で指が感覚をなくしていたけれど、
心だけはポッと温かくなりました。
この気持ちをどうにか伝えたい。
ありがとうだけじゃなくて、もっと違う何かを言いたい。
そう思って、帰ろうとしていた足を止め、お兄さんを振り返りました。
時間も時間だし私が最後だったようで、福引を引きにくるお客さんもいません。
「ばいばい」そう言って手を振るのが、幼い私にできる精一杯のことでした。
年頃のお兄さんは小さく右手を上げて「また」と返事をしてくれました。
私も「またね」と言えばよかったな。
家に帰った私にストーブの温かさが染み渡ります。
すっかり冷え切った私を見て、お母さんは言いました。
「また明日行けばよかったのに」
そうか。その考えもあったのか。
次の日もお母さんは福引券をくれました。
私はいつものように福引を引きに出かけます。
いつもとちょっと違ったのは楽しみなのが、
クジよりもお兄さんと会えることだったこと。
今日は昨日ほど寒くありません。
並んでいる人もいません。
そして、昨日のお兄さんもいない。
券を受け取ったのはいつもお店にいるおじさんでした。
「また」って言ってくれたのに。